■ Audio Short Essay  No.21 ■

◇ ジャズ喫茶 「ベイシー」 訪問記 ◇

先日、オーディオファンの間では有名な、岩手県一関市にあるジャズ喫茶 「ベイシー」 に行ってきました。

10月半ばすぎ、所用で東北地方を巡るとき、帰りは東北自動車道を一関インターから乗ることが分りました。
ここはなんとか時間を作って 「ベイシー」 に寄らねばならんと、1時間ほど計画の中に組み入れました。
今回は突然の訪問であり、私と店主は特別な面識もないので、ごく一般客としての訪問でした。

当日、到着30分前に電話を入れ、店が開くことを確かめてから、「ベイシー」 に午後2時過ぎ到着しました。
入り口の2枚目の扉を開けると、ベースの音が全身を包み込んできました。ここの音量はかなり大きいと
知っていたので、スピーカーから最も離れた席に腰を下ろしました。女性店員が注文を取りにきたので珈琲
を頼みます。15年以上前に一度ここに来ていますが、店内はほとんど変わっていない様子です。今回再び
店内を見渡すと、店の左半分がスピーカーと私のいる客席、店の右半分には、ライブで使うグランドピアノ
そして、さらにその奥に膨大なレコードコレクションを納めた棚と、オーディオ機器を収納したコーナー
があり、ここだけで客席と同等以上の面積があるようです。暗くて全体の様子はよく分りません。
天井を見上げると格子状の太い梁が見えますが、その隙間から高い漆喰の天井が見えて、ここは蔵だった
のだと分ります。私の席の後ろには4〜5畳程のバックヤードがあり、以前使っていたであろうウーファ
ユニットがいくつか棚に納められています。

1曲終わったところで、リクエストができるか店員に尋ねました。OKとのことなので、かねて調べてきた
「ハンク・ジョーンズ ラスト・レコーディング」 をお願いしたところ、「あります」 とのこと。
リクエストの曲が始まりました。この盤は比較的最近のもので録音が良く、曲もスタンダード・ナンバーが
多く入っています。 なにより、ハンクジョーンズの洗練されたピアノがすばらしい。 ドラムスの響きは
ダブルウーファの威力でなんと実在感のあることか。ジャズには、やはり大音量が不可欠であると実感
させられます。ウーファーユニットを収めた箱は、私の見た目で 500〜600リットルの容積があるように
見えます。これだけの大きな箱になると、もはや一人の手で動かすことは困難です。よく見るとウーファ
2個をはめたサブバッフルが取り外せるようになっているようです。低音部の調整はさぞ困難を極めたで
あろうことが想像できます。 中・高域は 375 と 075 のコンビで、ジャズ再生では究極の組み合わせ
サウンドを聴くことができます。30分以上聴いていましたが、疲れる音ではありません。マスターの精魂
こめて作り上げてきた音が胸を揺さぶります。

聴いているうち、コンサルタントである私の耳がチェックを始めていました。しかし、ここでそのあら探しを
することはやめましょう。 気持ちよく音を聴いているうちに、東京へ帰る時間が刻々と近づいてきました。
4曲程が終り、私が会計を済ませながら 「これから東京へ帰るので」 と言っていると、奥でマスターが
レコードの裏面をかけてくれる準備をしていました。裏面まで掛けてくれようとしている店主に心から感謝
しながら、世話になった女性店員に 「マスターによろしく」 といって店を後にしました。



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