■ Audio Short Essay  No.14 ■

◇ オーディオ・コンサルタント 立ち上げの原点  ◇

今回は、私がこのコンサルタントを立ち上げた原点をお話しましょう。


皆様もご存じの、タンノイ・オートグラフを愛用され、作家でクラシック音楽には造詣が深かった

故 五味康祐の著書 「五味オーディオ教室」 《昭和51年初版本》 に次のような文章がありました。


『 ・・・後年、私は新築の家に移転した。ベーゼンドルファーを据えた娘の部屋は十畳余だが私のレコード

を聴く所は三十畳。うち十畳には一段高く畳を敷いて客座敷にし、天井には薩摩葦を張った。この座敷の障子を

開けると三十畳が見通しになる。スピーカーを置いてあるのは絨毯を敷いたほうで天井は壁天井。新築の家は

すべて本建築の民芸造りにしたから、この壁のため聚楽土を取り寄せたり、左官を京都から呼んだりした。

おかげで、じつにしっとりとした深みのある、東京では見られぬ好い壁色が出たが、残響がつよすぎた。

だからといって、いまさら防音テックスを張るわけにはゆかんだろう。・・・案に相違して、エコーのひどい

聴くに耐えぬ音になった。・・・低音はこもり、風のようにさわやかに抜けてくれない。もやもやして、私の

もっとも軽蔑する低音なのである。・・・こうなれば、ふたたび試聴室を建てねばならないが、今の家を新築する

のに二年半かかった。私には借金こそあれ一文のたくわえもない。でも建てねばなるまい。何年かかるか、

いわば高貴な婦人を迎えるにふさわしい部屋を用意せねばならないだろう・・・ 』


私は20代のときにこの本を手にし、オーディオの奥深さと共に、大きな代償を伴う失敗もあることを知りました。

それからこの一文は後年になっても私の頭から消えることはなく、五味氏はどうしてこんな体験をしなければ

ならなかったかを、事あるごとに思いだし、考え続けることになりました。


オーディオの世界は科学工学と音楽芸術が混然一体となった分野です。技術屋として私のオーディオに対する

理解が深まるにつれ、再生音とオーディオルームの関係が非常に密接であり、オーディオ機器を生かすも殺すも

オーディオルーム次第であるという認識が、私のこころに深く刻まれました。ところが、オーディオルームに対する

音楽愛好家の認識は今でも高いとはいえません。オーディオルームに対する認識の低さから、資金を無駄に

つぎ込んでいる愛好家をみると、とうとう黙っていられなくなりました。それからオーディオ・コンサルタントを

立ち上げ、迷える音楽・オーディオ愛好家の役に立ちたいと思うようになったのです。




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