■ Audio Short Essay  No.13 ■

◇ 「原音再生」 は有効な目標か ◇

今回は 「原音再生」 という言葉について考えてみます。


この言葉、ハイファイ(Hi-Fi) と共にオーディオ用語として昔から使われていますが、非常に問題の多い

用語でもあります。「原音再生」 はオーディオの究極の目標として掲げられていますが、定義が曖昧で

これを話の題材にすると議論は果てしなく続き、最後には喧嘩にまで発展する 「魔力」 を持っています。


「原音再生」 を言葉どおりに理解すれば 「原音と同じ音を再生する」 となりますが、この 「原音」 の

定義からして容易ではありません。アンプにインプットされる信号を 「原音」 とするなら簡単です。

現代のアンプは、ほぼ歪なく信号を増幅するので、出口のスピーカーシステムとその音響を理想的に

響かせるオーディオルームが 「原音再生」 の鍵をにぎります。


次に、録音する前のナマ音を 「原音」 として、議論を展開すると簡単な話ではすみません。

例えば、先日あなたが聴いたコンサートが録音され、CDとなって発売されたとしましょう。

しかしこのとき録音に使用されたマイクは、あなたが座っていた位置にあったわけではありません。

CDとなって再生される音と、あなたの記憶の中の音はすでに条件が同じではないのです。

ましてマルチマイクで録音された音源では 「原音」 の定義がさらに難しくなります。このように

考えてくると 「原音再生」 は極めて限定した条件で実験されなければならない事がわかります。


また 「ナマの原音」 はすべてが素晴らしいかというと、そうとも限りません。

CDで聴いた音楽がすばらしく、後日その楽団の演奏会に心躍らせて行ったところ、CDで聴いた

感動は得られなかった・・・という経験はおありでしょうか。つまり 「原音」 と思われる現場の音より

録音されたCDの音が心に感動を与えた、という例です。


録音技師は 「原音再生」 を意識して録音しているわけではないでしょう。目標とするのは

「それらしい雰囲気の音」 ではないでしょうか。マイクで拾った音のバランスをとり、時には多少誇張

した音作りがされているかも知れません。こうしてその場の雰囲気を再現する音が創られていきます。

私たちがCDを聴いて 「それらしいコンサート会場の音」 がして 「その音に感動」 すれば 「原音再生」

の言葉を意識しなくても、そのCDは 「好録音のすばらしいソフト」 ということができるでしょう。





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