■ Audio Short Essay  No.10 ■

◇ オーディオの聴感と測定データ ◇

オーディオ・ファンの一部の人たちが発した言葉で、少し気になるのが・・・

「人間の聴覚は測定器より微細な違いを聞き分けるので、調整は人間の耳だけで十分だ」

など、測定による調整を懐疑的にとらえる風潮があることです。


人の耳は確かに微細な音を聞き分けることができます。その良い例が、オーディオ・ケーブルの音の

違いを人は聴き分けられる、という事実です。しかもこの音の違いを、測定データで説明することは

現状では困難です。このことから 「オーディオ・システムの最終調整はすべて聴感で調整する

のが良い」 という理屈が生れてきます。さらには 「測定器で調整されたオーディオ・システムからは

芸術的な音が聴こえてこない」 など、全く否定的な意見さえ耳にすることがあります。

一般的なオーディオ・ファンが最終調整をする場合、測定器を用意していない場合も多く、このことが

測定器不要論に拍車をかけているようにも思います。


ここで注意しなければならないのは、人の聴覚は非常に微細な音を聴き分けるけれども、常に正確な

判断が出来ているわけではない・・ということです。同じレコードが日によって違った印象に聴こえる

という経験はどなたにもおありでしょう。また歳月の経過で音の好みが変化することも知られています。

さらに、その人の嗜好・環境により音のバランスにバイアスがかかる場合もあります。このように短期間

の比較実験などでは、聴覚は鋭くその違いを判別できるのに対して、絶対的な正確さという点ではあまり

信頼性のない面も含んでいます。私の過去の調査でも、聴感で解決できないという依頼により音響測定

をしたところ、基本的特性に大きな問題があることが解り、それを対策して改善した例も多いのです。


オーディオにのめり込むあまり、再生する音楽のみならず、手段をも芸術だと称して測定データを軽視

すると、調整結果は独りよがりな再生音となってしまう場合もあるかも知れません。

熱烈なオーディオ・ファンの言いたいところは、測定器で調整した後でも、最後の聴感による微調整

には 「芸術的感性が必要だよ・・・」 と言っているのだと思います。




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